雨の駅前。とおりがかりに「いつものおじさん」の姿を目で探す。
「いつものおじさん」とは、わたしの利用する駅の構内で暮らしている人物だ。礼儀正しく、自ら駅周辺のお掃除も欠かさないというホームレスらしからぬ人。
この可愛らしいおじさんをわたしは密かに応援している。
「今日は寒いですね。でも春はすぐそこ! サンタより」
こんな短いお手紙と、わずかながらもお金を入れた封筒を、時折こっそりと彼の荷物にしのばせている。もちろん彼は誰がサンタかしらない。
「誰かが自分を見ていて、応援している」
そう感じて欲しかったから。そして今日の彼ったら、何かのチラシを熱心に見てる。
「なんだろう?」
気になって通りすがりざま、横目でチラリ。あろうことかそれはクリスマスディナー宅配のパンフレットだった。色とりどりのご馳走が並んでいる。鼠色の空、帰宅を急ぐ人たちの足元に、暖かな食卓に並ぶであろうご馳走を見ている彼。
思わず息がつまる。涙が抑えられない。足を止めずに立ち去るわたしに無力感がおそいかかってくる。これからまた、冬が来る。これじゃ去年とおんなじだ。
わたしが応援したところで、事態は何も変わっていないじゃないか。わたしにできることなんて限られているんだ。彼に帰る家も、迎える家族も作り出すことはできない。
「ヒーラーなんていったって結局、誰も救えないんだ」
傘を持たずに出たことが、ありがたかった。週末の金曜の人混み。頬を濡らす涙は、雨がかき消してくれる。どんどん歩いてどんどん悲しくなって、そうして気がついた。
続く
Photo 近所の裏通り 軒先にひっそりと
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