「脇をお回りなさい」
壁はそういった
突然目の前に現れた
そそり立つ黒く大きな壁
せっかくここまで来たのに
どうすることもできず
悔しさに涙し
どこにもたどり着けない
あせりに
立ちすくみ
うなだれるわたしに
壁はそう言ったのだ
勇気を振り絞り
わたしは一歩、二歩と下がった
そしてそのおおきなおおきな恐ろしい壁を
じっと眺めた
ぷつり
猛々しく挑戦を挑むように見えた壁は
どこまでも続いていたのではなく
すぐそこで終わっている
爪をはがさんばかりに
よじ登り
飛び上がり
超えようとしていたこの壁は
わたしという無茶な冒険者を
きっと微笑んで見ていたことだろう
とことこと
壁の「すぐ」脇を通り抜けてみる
目の前に広がる
雄大な景色
息をのむ遠くの山々
あっという間に遠くまで歩いた
振り返ると
そそりたっていたはずの壁は
小さく可愛らしく
目のすみにうつるだけ
似たような思い出が蘇る
なんどもなんども
そう
いつもいつでも
苦闘ではなく楽しさで
乗り越えられた壁があることを
歌いながら
笑いながら
わたしは見えてきた山へと歩む
空を突く険しいその姿
頂には凍てつく白い冠
けれどもう
わたしは恐れない
楽しくたどりつく道が
必ずあることを知っているから
さあ
頂上から吹いてくる
冷たく新鮮な風を
思いっきり吸い込もう
あの山の向こうには
何があるんだろうと
胸ふるわせて
一歩一歩、歩もう
photo 長野県諏訪大社の大樹
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