春は天気が荒れるなんて知ったのは
かなり最近のこと。
冬が寒いことは知っていた。
夏が暑いことは知っていた。
でも、それ以外は?
空調のきいたオフィスのまんなかに
いたせいかしら?
いいえ、あちこち外出することも多かった。
移動はタクシーで地下鉄で
時間に追われて。
そう周りを見渡す余裕など
きっとなかったんだ。
目には入っていた。
でも見てはいなかった。
雨、風じゃまものだったから。
もちろんお花見はした。
桜は大好き。
音もなく散ってゆくときの夜桜が好きだった。
でもたいていは
華やかにぎやかに宴会だのパーティだのに
桜の夜は消えていた。
春の嵐を知らぬころは
VIPやら著名人やらに囲まれ
たくさん稼いでたくさん使って
そうテレビドラマのようで。
だのに崩れ落ちそうな不安が
いつも足元に口を開いていた。
そしていま
雲の行方を飽きず眺める時間をもらい
持っていたものは、もう持っていない。
そして知っている。
春の気ままな、でも激しい嵐を。
どちらが豊かなのかは
比べようもなく、決まっている。
いまのわたしは飛び出せる。
嵐に傘もなく。
笑いながら。
滴り落ちる嵐を
肌で感じて。
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